第10回 インテリアデザイナーができること

今回は今までと内容を変え、インテリアデザインのプロとしての活動についてお話してみたいと思います。

インテリアデザイナーのプロとして何をすべきか、何ができるかという問いは、常に私にとって大きなテーマです。会社を運営し経済活動を行う限り、個人の利益のみでなく、社会や市場への貢献がどうできるのか、またその貢献によって、さらにその分野の発展に寄与できるかということも考えます。
この考え方は、チャリティの精神と企業の社会責任に関する考え方が浸透している英国で起業し12年にわたり会社を続けてきた中で、同業者のあり方から学んだ姿勢でもあります。
目の前のお客様のために最良の空間を作り出すことは、もちろんプロとして最も大切なことですが、社会貢献という目で見た時、インテリアデザイナーができることは、国を問わず数多くあるように思います。
実際インテリアデザインを取り巻く経済状況は不安定ですから、厳しいときは余裕がない場合もあります。でも可能な限り企業としての貢献は行っていたい、それがモットーでもあります。

今回はそんなインテリアデザイナーとして貢献できることを以下の項目にして、ご紹介してみたいと思います。

  1. 過去から未来への橋渡しをすること
  2. インテリアの本当の面白さをプロとして伝えること
  3. 革新と歴史伝統保護を両輪とすること
  4. インテリアのスキルをチャリティ活動の中で生かしていくこと
  5. 未来の才能を育てること

話が大きく見えますね。でも次の個別の解説で、「ああそうか」と思っていただけるのではないでしょうか。

 

1.過去から未来への橋渡しをすること

インテリアのプロが過去からのものを未来へつなぐ、どういうことでしょうか。トレンド(動向・趨勢)を例にお話ししてみたいと思います。

トレンドというと、皆さん何を思い浮かべるでしょう。ファッション、今はスマホに代表される通信機器でしょうか。食もすごいですね。デパ地下で次々生み出されるグルメのレベルなど、世界中のどの国もかないません。すべてそこに大きな需要がある業種です。インテリアはどうでしょう。日本ではあまり意識することはありませんか? 私がいるロンドン含めた欧州では、毎年大きなトレンドが生まれます。
5月末から6月初めにかけて東京、大阪、名古屋でプロの皆様向けに、ヨーロッパのトレンドセミナーを行いました。皆さん次々生まれるトレンドのお話を、驚きを持って熱心に聞いてくださいました。(写真は名古屋会場)

インテリアトレンドのきっかけは、今そこにある社会現象であり、経済動向であり、イベントです。そのトレンドを知ることは、欧州のプロにとって、深い意味によって必須と考えられています。ちなみに春のトレンドに関しては、こちらのブログで触れていますので、よろしければご覧になってみてください。

トレンドが映すものは、インテリアという大河の一筋のようなものです。しかし、その大河は人が定住という生活を得たところからその源を発し、さまざまな建築様式、そして文化や芸術も発展させ、暮らしを彩る装飾芸術を生み出し、家具を生み、やがてバロックに始まる国をまたいだトレンドを生み、国の覇権や経済の隆盛を映し、現在に至るデザインの潮流をすべて内包する大河です。
大きなトレンドのうねりは過去の水滴の中から生まれ、未来へと続く流れとなるのです。
人類の英知が作り上げてきたもの、それが現在の住環境であり、それはさらに向上させる(少なくとも向上させる想いで生みだす)べきものです。人がいい環境、美しい環境で住みたいと思うことは人間として当然の要求であり、権利です。プロはそれを実現させるために、どの時代も最善を尽くしてきたでしょう。その結果の一つがトレンドです。

だから、トレンドは単に消費社会の無意味さを映すものではなく、未来へつなげる種なのです。咲かせる種を作るのがプロの仕事です。

インテリアに関しては、トレンドに興味を持たない、あるいはトレンドに振り回されるべきではない、との態度を取るプロも目立ちます。それはトレンドを表層的にしか捉えていない見解です。少なくとも、住環境の向上を生業とする私たちプロは、トレンドの本当の意味を理解するべきでしょう。
プロとして、今世界でインテリアに起こっていることをまず知ること、そして継続的に理解することが第一歩であり、インテリアを前に進ませる原動力だと思うのです。

今後日本においては、マーケット発展のバロメーターである、デザイン分野全てを巻き込んだトレンドを生みだすことが、業界に関わる私達プロが目標とするべきことと考えます。

 

2.インテリアの本当の面白さをプロとして伝えること

私たちプロは、誰よりもインテリアの面白さを知っています。それを伝えるのも、私たちの仕事です。それをプロとしての言葉で伝えられるのは私たちだけです。
たとえば一つの家具を所有する時、そこにストーリーがあるか否かで、所有することの誇りと喜びは、値段に関わらずはるかに上がります。そのストーリーを語るのがプロの仕事です。つまりインテリアは、プロがどんな言葉で介在するかによって格段に面白くなりうるのです。さらにお客様に納得してお金を使っていただくモチベーションを高めるのです。(参考:以下写真は2007年に販売されたプレティナージュ京都御池のモデルルームのリビングダイニング部分)

作品をウェブで表現する、ブログやコラムなど言葉で伝えるなど、できるだけ多く広く伝えることも、マーケットを大きくするために必要です。多くのプロが継続的に行うことで、インテリアに関する情報が飛躍的に増えるでしょう。どんなことでもいい、インテリアを面白くする情報発信が重要です。

幸い私もこういうブログで書かせていただく機会があります。できるだけたくさんの映像資料と共に、楽しく伝えることを心がけています。書く作業はもう10年以上継続して続けていますので、最近は「読んでいます」と声をかけていただくことも多くなりました。大切なことなのでずっと続けたいと思っています。

日本経済の将来を見据えた時、新たな産業分野の振興による内需拡大は不可欠です。インテリア産業はまだ成長の余地を残す数少ない分野の一つです。今後プロの情報発信力で市場のモチベーションを高め、成長産業へと育てていくモデルが必要になってくるでしょう。

 

3.革新と歴史伝統保護を両輪とすること

住宅を取り巻く設備はどんどん進歩します。今は、サステイナブル(持続可能な)、エコ、エネルギー、省エネ、そしてバリアフリーなどをキーワードとして、新しい設備商品が市場にあふれています。
技術革新を導入することはもちろん重要ですが、一方で歴史や伝統を後世に伝えていくのもプロの役割です。背反するようですが、そのバランスは車の両輪ほど重要です。

ヨーロッパのインテリアデザイン市場が堅調である最も大きな理由が実はこれです。歴史を経たものには絶対的な美が宿ります。たとえば建築空間においてそれは顕著です。西洋のインテリアデザインの発展の歴史は、プロポーション(調和・均衡)が取れた包容力のある空間の上に成り立っています。(コラム第1回から3回で詳しく述べています)
プロダクトデザインにおいても、過去の造形から学ばない限り、真に新しいデザインは生まれません。
さらにアンティークやビンテージなどを大切にしつつ、モダンデザインにブレンドすることで面白さや深みも倍増します。

日本には素晴らしい伝統工芸や芸術があります。それらのインテリア商材としての可能性も非常に高い。それを日本のみならずイギリスのプロにも知ってほしいと、自らのロンドンの自宅をショーケースとしスタートしたのが、「Buy J Crafts Campaign」伝統工芸品普及キャンペーンです。(下写真:モダンな洋のエレメントと和の伝統工芸品が、エクレクティックに混在た空間。伝統工芸品は洋のインテリアによく合う。)

実際この活動をスタートしたきっかけは、震災後の風評被害で、直後からロンドンの日本食レストランが次々と倒産したり、果ては震災前に入ってきていた日本からの食品やインテリア商材すら購入拒否に合うという不条理に接したためです。(英国には放射能の情報が日本以上に入っていましたのである意味しかたない現象でもありました。)
「そんなことで負けてはいけない」「日本の伝統工芸品の素晴らしさを、逆にこのキャンペーンによって知ってもらいたい」、という思いで始めた活動です。その結果、英国のインテリアプロたちも大変協力的に受け止めてくれて、徐々に英国のみならず日本にも広がり、それを評価してくださった長谷工コーポレーションさんがブランシエラ吹田片山公園マンションのモデルルームに採用してくださいました。(コラム第9回で例をご覧いただけます)
当初は風評被害をはねのける目的でしたが、今この活動が目指すところは、大きな可能性を秘めた伝統工芸品が、インテリア商材として、和洋空間問わずマーケットを広げていくことです。

革新と伝統の両輪のバランスの中に、インテリアデザインの発展が宿るのです。

 

4.インテリアのスキルをチャリティ活動の中で生かしていくこと

未曾有の震災後、多くの産業分野がそれぞれの支援を模索し、実行し、成果を上げてきました。
インテリアのプロとして行える活動として昨年10月からスタートしたのが、「壁紙プロジェクト」です。寄付による基金で調達した英国の一流メーカーの壁紙 (昔ながらの版木印刷による手刷りの壁紙。自然素材のみを使用し、手刷りならではの顔料の風合いと色合いが楽しめる) を、仮設住宅、集会場、老人介護施設、養護施設などに、日本側のボランティアなどにより貼る活動です。

既に10万個の仮設住宅で多くの被災者の皆様が暮らしています。被災した沿岸部の住宅は比較的大規模な戸建て住宅がほとんどです。伝統を重んじ豊かな暮らしをしてきた被災者の皆様にとって、仮設住宅の環境はどれだけ厳しいものでしょう。高台移転などの問題を残し、仮設住宅での暮らしは、今後5年から10年続くであろうといわれています。子どもたちはこの環境の中で成長していかなくてはならない。色彩学研究が盛んな欧米では、子どもは真っ白い空間で育ててはいけないと言われています。右脳(情緒脳)の発達に影響を及ぼすからです。私たちインテリアデザイナーも子供部屋には感性を刺激する明快で楽しい色を使います。(日本での研究についてはこちらから論文をご覧いただけます)

仮設住宅は基本的にプレハブの鉄骨と白のプラスティック板、良くても白のプレーンなクロス張りの壁です。カーテンは遮光性能がない裏なしのベージュ、寒冷地でありながら、窓はシングルガラス、外とつながるむき出しの鉄骨は寒さをそのまま伝え、雨漏りに家じゅう結露、ビニールタイルの床からは冷気がはい上がる、隣の音は筒抜けという劣悪な環境でした。(2011年10月時)

昨年10月に仮設住宅に調査に入り、ご主人を亡くされ独り暮らしになったお年寄りから聞いた「毎日この白い壁を見ながら、独りで食事をしています。せめてきれいな花が描かれた壁紙があったら、その花を数えることもできるのに。」という言葉が、壁紙プロジェクトを進める決心につながりました。(聞き取り調査についてはこちらからご覧いただけます。)

しかし実際敷設を行おうとした時、問題があることが分かりました。「仮設住宅は2年で原状復帰して返さなくてはならない」という通達が徹底しており、住民の皆様は壁にテープ跡すら残してはいけないとびくびくしながら暮らしておられたのです。住民は「自治会に怒られるから」と、自治会は「市に怒られるから」、市は「県に怒られるから」という連鎖でした。幸いそこでは市の担当者の方が「いいですよ」と言ってくださいましたが、すべての自治体がそう言ってくれるわけではありません。

このことを知り、日本国憲法が保障する健康で文化的な暮らしにももとる環境で暮らしている方々が、びくびくしながら暮らさなければならない現実に愕然としました。ちなみに日本国憲法第25条には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」とあります。行政が住民の暮らしの向上のためにあるのであれば、仮設の状況を見て「戻す時跡が残っていいから、お子さんの好きな壁紙を貼らせてあげてください」と即座に言っていいのではないか、仮設をあてがったという傲慢すら感じられ、忸怩たる思いとともに、住環境向上のためにプロが声を上げることが必要だと気付かせてくれました。

しかしだからといって現在のルールを破るわけにはいかない。そこで壁紙普及にも熱心な、大阪の壁紙本舗さんに相談したところ、仮設住宅用の壁紙の張り方を考えて下さいました。はがすことを考えると、マスキングテープのようにはがれるテープを使わなくてはならない。でも一般のマスキングテープは長期放置するとのりが劣化してべたべたになり残る。それを解決するために、シリコン糊で何年後でも劣化せずはがせ、さらにマスキングテープでありながら上にテープが貼れるタイプのものを探してくださいました。さらにそれと壁紙を貼り合わせるための両面テープも劣化せず再利用できるものを見つけてくださいました。これにより、壁紙を糊もテープも残さずに貼ることが可能になり、いずれ新居に移った時に、そのまま持って行って貼ることも可能になります。(壁紙は20年以上持つそうです) 実際私もキャピトル東急ホテルで壁紙を縦一本貼り、周囲に周りぶちを回して絵画のように掲げましたが、将来こんな使い方もできます。

壁紙プロジェクトは発足から8か月の間に、調査、プランニング、論文検証、ウェブ作成、募金準備、貼り方調査と実証、貼らせていただく場を広げる活動、現地でのデモンストレーションなどの準備段階を経て、7月から本格敷設を始めます。もし主旨にご賛同いただき寄付にご協力いただけるようでしたら、こちらからご寄付をお願いいたします。長い期間かかるプロジェクトですので、長期の支援が必要となります。

壁紙プロジェクトを続けるうち、新たな展開も生まれ始めています。仮設住宅では手作りのグループが活動をスタートし、折しもロンドンのアパレルメーカーが日本の着物地や裏地を使用したアクセサリー製作を行う際に作業を委託したいという申し出があり、ビジネスベースにのせるべく動き始めたり、大手ファブリックメーカーがファブリック(生地や織物)を提供してくださることとなり、それをミシンで縫って、カーテンやクッションを製作し、このうちクッションについてはメーカーの家具ショールームで販売を行う計画が進んだりしています。(工業用ミシンでちゃんと動くものが眠っていたら、ぜひご寄付ください!)

訪問を重ねる中で何よりうれしいのが、仮設住宅の皆さんが新しいことに取り組み、希望を見出しておられること。家を失い、多くが家族も失った苦しみを抱えておられるにも関わらず、前へ向かう決意とともに明るくふるまわれている様子は、本当に頭が下がります。

今後もチャリティイベントなどでの募金活動も含んで、壁紙プロジェクトを推進していきたいと思います。
皆様の末長いご協力を、どうぞよろしくお願いいたします。

 

5.未来の才能を育てること

産業は新しい才能が生まれ続けることで活性化します。学校、資格取得はプロに足をかけただけの第1段階。プロになってからの勉強で、初めて本当に芽が出てくるのです。その芽を育てることができるのは同じプロだけです。
私が所属する BIID 英国インテリアデザイン協会では特にこの点に熱心です。協会の組織自体がピラミッド構造になっており、下位メンバーとして最初の試験を通って下位メンバーに足をかけ、毎年階段を上がっていき、その間に上位メンバーからのカウンセリングなどを受けながら、最終的に5年ほどかけて最上位の正式メンバーに上がるのです。正式メンバーとなれば協会のお墨付きとなり、さまざまなプロモーションの機会も得て、世界のマーケットへと視野を広げていくことができるのです。実際1人前になるのに10年かかるといわれる職種です。このシステムがどれだけ大きな助けになるか。何の身寄りも経験も地盤もなかった日本人の私が、インテリアデザインを学び、会社を興し、12年にわたりインテリア激戦区のロンドンでビジネスを続けて来られたのは、ひとえに協会のお陰、プロになりたい人を支えるシステムがあったからです。

このBIIDには現在11名の日本人メンバーがおり、「英国インテリアデザイン協会日本人の会」として、任意団体として日本国内で活動しています。(詳しくはこちら) メンバーの中には、それぞれの活動地域で勉強会を立ち上げたり、若い人たちにプロの手法を教えるコースを開催する人もいます。

私は、日本でもプロが本当に学びながらスキルアップできる、大学院レベルの教育の場を提供したいと以前から考え準備を進めてきました。こうして作ったカリキュラムが評価され、ようやく英国のカレッジとの提携が叶い、英国の正式なディプロマ(資格免状)を得られるプロ向けインテリア塾を10月1日に開講できる運びとなりました。(詳しくはこちら) 目標は5年後にBIIDメンバーレベルのプロを20名育てることです。英国のマーケットが35年前にこの手法から大きく発展を遂げたように、20名のセレブプロが育てば、マーケットを動かす大きな力になります。

英国のインテリアデザイン業界が世界一といわれる背景には、プロが協会をつくり、協会がプロを育ててきた35年の歴史があります。力を持ったプロが市場を牽引する力となったのです。

プロとしての経験が10年を超えたら、若い人に教える力をつけたといえるでしょう。若いプロを育てることが、業界やマーケットへの力になり、なにより教えることにより自分自身の力にもなるのです。
この話をすると、ライバルを増やすだけではないか、といわれることがあります。私は逆の発想をします。
インテリアデザイナーの力は個性です。個性で勝負する限り、何人プロがそこにいても脅威ではない。むしろ大きな力の集合体となって、市場そのものを大きくする力となるでしょう。

今の日本にとって最も重要な、住宅部門のインテリアデザインマーケットを大きくし、新たな内需マーケットを創造することにおいて、未来の才能を育てることが、重要な意味を持ってくるのです。

いかがでしたでしょうか。
今回は少し硬いお話となってしまいましが、お伝えしたいことは、インテリアは本当に面白くて深い、そして役に立つ、その一点につきます。

ブランシエラ吹田片山公園のような「長期優良住宅」は、今はまだ新しい制度のもとの住宅ですが、人が生きていく為の大切な住まいを「過去から未来に橋渡しをすること」にも通じ、将来の住宅のあり方を拓く、大変意義のある取り組みと考えます。
住まいを長持ちさせることで、壊しては新たに建設する無駄が省かれ、環境負荷を少なくし、持続可能な住環境をつくり、さらに箱だけでなく住まい方やインテリアの向上も含めた、豊かな社会が実現されるという考えかたは、今まさに潮流でもあります。
日本でも、イギリスのように世代を越えて住み継がれる住まいが一般的になるのは、
遠い未来のことでもないでしょう。
そして、日本発信のファッションが世界を動かすまでになっているように、日本発信のインテリアデザインが、内需を拡大するだけでなく、世界的に広く評価される未来もすぐそこに来ているのではないでしょうか。
プロとしては、それを目指し、それに貢献すべく、今の自分でできることに着手することが大切だと思うのです。

また新しい話題でお目にかかれるのを楽しみにています。
ありがとうございました。

澤山乃莉子