第2回 イギリスの住宅事情(2)

イギリスの人々は古い家でもモダンなライフスタイルを楽しんでいます。なぜ古い住宅でモダンなライフスタイルが可能なのかを建築と空間の視点から考えてみたいと思います。
また、メンテナンスがしやすく、経年に関係なく自由度の高い建物とはどのようなものなのでしょうか、ロンドンの事例をもとに考えてみたいと思います。

 

イギリスのインテリア

英国の人々はインテリアが大好きです。
1995年にイギリスに来てまず、そのマーケットの大きさ、バラエティ、ダイナミズムに本当に驚かされ、人々のインテリアにかける情熱の高さに圧倒されました。
日本でイギリスのインテリアと言われれば思い浮かぶヴィクトリア調に代表される重厚なイメージなどは、数百とあるスタイルのごく一部でしかなかったのです。

私がインテリアの面白さに目覚め、さらに極めてみたいと思った大きな理由の一つに、インテリアが人生を映すものである、という考え方に出会ったことです。
インテリアはその人の人生や趣味、好きなことを表すものです。一人ひとりにとっては人生を映すキャンパスです。
だから基本的に、インテリアにおいては人と同じものは嫌いです。
その人なりをあらわすインテリアを一人一人が追い求めます。
その考え方が根底にありますから、デザインの種類も千差万別です。
そして建築を語ることが好きであるように、多くの人が自分のこだわりのインテリアをもち、それを語ることが大好きです。

そんなインテリアと建築好きな英国民が家を買うときは、何を基準に、そして何を大切に考えて、家を選ぶことになるのでしょうか。

 

住宅の価値の測り方

下の写真は、ロンドン市内の主に高級住宅地で、各戸に毎月無料で配布される、住宅情報誌Fabricからの映像です。雑誌からの掲載許可をいただいてここではご紹介していますが、前回もお話ししましたように、住宅の流通の8割以上が中古住宅ですから、今人が住んでいる状態での写真がほとんどです。日本であれば住宅情報は何もない状態でのスペースを中心に掲載するでしょうが、こちらではインテリア付きです。

たとえば、こちらは少し男性的で落ち着いたインテリアです。古い住宅を買い上げ改装し、インテリアも入れて、そのまま売ることもします。プロパティデベロップメントといわれ、これはその一例です。

次はウォーホール風のアートや、その間にある、もともとは暖炉のスペースを使ったニッチスペースが効いている、アーティスティックなインテリア。

次はいわゆるZenスタイルを採り入れたモダンスタイル。

次は天井の高い空間のクラシカルなエレメントをシンプルモダンにしたデザインです。

インテリアのテイストがさまざまで、見ているだけで楽しくなりますね。
住宅情報がインテリアを重視する、それにはとても大切な理由があります。

家の価値は、どれだけいいインテリアを作ることができるか、つまりそのスペースが持つインテリアに対する可能性によって決まるともいえるからなのです。
ですから売家のパンフレットでは、できるだけインテリアの完成形を表現します。
買う方も、それをしっかり見ています。
そして、その見方にはある決まりごとがあります。いい空間の法則にかなっているかどうかを見極めるのです。

 

長寿命住宅の空間

では次に、家の価値を決定する空間の法則を見てみましょう。

 

1. いい壁があること

壁はインテリアの背景として大変に重要なものです。極端な話、いい壁がないと、家具は置けません。
いい壁とは、その前に置く家具より大きく、さらにプロポーションがいいことも必要です。左右どちらかにずれていたり、大きさが足りなかったりしたのでは背景として機能しません。5年ほど前、あるマンション開発会社に、大変高額なマンションを建てたのに、全く売れなくて困っているので見てもらえないか、というご相談をいただきました。全戸一億円以上、150平米以上のマンションでしたが、売れていないほとんど全戸でこの壁の問題を抱えていました。この金額の物件を購入されるお客様とは、家具や持ち物も、それなりにお持ちのはずです。しかし、その家具やアートを置く壁がなかったのです。本当は壁にしてほしかったところに、アンバランスな窓が来ていたり、たとえば、ダイニングルームにコーナー出窓が作られていたりしていたのです。ダイニングルームで正式なセッティングをするのに、ダイニングテーブルの背景となる壁は不可欠です。コーナーウィンドウなど作らなければ、いい壁ができていたのに、それをつぶして、空間としての可能性を落としてしまっていたのです。建築的には凝った作りで、いかにも高そうな造りに思えるのですが、そこに入るべき家具を入れた、空間としての完成形を全く想定していない間取りでした。
英国の古い家では、この部分を外すことはまずあり得ません。誰がどう住んでも、その家具やアートをきちんと置くことができる壁を持っています。だからこそ数百年にわたり、住み継がれているのです。

 

2. いい窓があること

日本の窓が、全開口で中にいる人の意識を外にもっていこうとする考え方を基本にしているのに対し、西洋の窓は、空間全体のバランスを取り、リズムを生み出し、さらに視線をその前で留めて、前景にあるインテリアを引き立たせるためにあります。窓がインテリアのレイヤーの最も後ろに背景としてあり、その前に重層的に家具が配置されます。このように西洋と和の窓は考え方が全く逆なのです。この理論を背景に、日本式の窓はその前にものを置きにくい構造になっています。窓の前にものを置けない、ということは、空間の志向性が一方に片寄るということです。つまり、家具やインテリアを豊かに置きたいときに、そうしにくい空間を作ってしまっているのです。
インテリアの背景として窓を考える必要もあるのです。
上の写真を見ていただくと、背景としての窓の役割をご覧いただけるのではないでしょうか。
高い天井に縦長の窓が並んだベイウィンドウ、ため息が出るほど美しい空間ですね。
前回のコラムでご紹介した200年前のマンションで数多く見ることができます。

また、日本の多くのマンションの場合、空間のプロポーションにはお構いなく、引き違い式に規格サイズで作られたサッシの窓が使われることが多いようです。このこともインテリアを考える上では障害となってしまいます。
ここでは照明のお話はしませんが、明るい蛍光灯イコールいい照明、という考え方と並んで、大きな窓イコールいい窓、という考え方からは、そろそろ卒業すべきですね。
全ての土地の条件で、ただひたすら窓を大きく取った空間がいいわけではありません。
そこからの景観や日照の条件を加味し、さらに住まう人の暮らしのあり方をサポートできる窓の作り方を、通り一遍でなく、考えることが重要です。
数百年を経てきた西洋の窓の考え方には、参考になる部分が多くあるように思います。

 

3. 空間のフォーカルポイント(アンカーとなる焦点)があること

上の写真のうちの数枚では、暖炉をフォーカルポイントとして、椅子やソファがそれを囲むようにコの字に配されているのがお分かり頂けると思います。西洋のインテリアの場合、このアンカーの最も一般的なものは暖炉です。揺らぐ暖炉の火を囲んで座るとき、とても温かい気持ちになります。暖炉があると、実は人の表情もなごみ会話もはずむのです。よく壁際にテレビを置いて、それを正面から見るようにソファ一本だけ置いているインテリアの写真を目にします。一見シンプルモダンで格好良く見えるのですが、これでは空間を囲むのではなく、テレビと向き合っていることになります。
そこで人がなごむことができない空間は、家族をはぐくみ長い年月を過ごす家にはふさわしいものとは言えません。人間関係を育める間取りが、長寿命の家には不可欠です。そのためにも、人の意識の中心となり、それを取り囲むことができる空間のフォーカルポイントは大変重要です。

 

4. シンプルでバランスのいい箱であること

上の1,2,3の条件を満たしていくと、自然とシンプルでバランスの良い空間になってきます。西洋の家は、窓枠や暖炉にその時代のディテイルを残していることはありますが、多くの場合、シンプルな長方形の箱であることが多いのです。上の写真の空間も皆そうですね。
下の写真を見てください。築200年のマンションのリビングルーム、家具のない状態です。

空間が上の条件をほぼ満たしていますね。この空間にはいろいろな可能性を見出すことができます。モダンにもトラディショナルにも、デコラティブにもシンプルにも、様々なインテリアを容易に想像することができます。

以下の図面は、約8年前にロンドン市内中心部、築220年のリージェンシースタイルのタウンハウスを手掛けた時の図面とスケッチです。この時代の空間や窓の一般的なプロポーションがご覧いただけます。

以下の写真は日本のマンションでできる限り上記の条件を満たすように空間を調整して作ったインテリアです。飽きの来ない、息の長い空間であることを願って作りました。

これから数百年にわたって、人々の暮らしとインテリアへの思いを支えることができる家と空間のあり方を考えることのヒントは、やはり数百年を経てきた空間の中にあるのではないでしょうか。

 

住宅の設備とメンテナンス

築200年の家に住むといっても、電気、給排水などの設備は新しいものに変えていく必要があります。200年もの寿命を持つ建物を、人々は実際どのようにメンテナンスしているのでしょう。
私は今までロンドンで3件のマンションに住んできました。1890年代、1920年代、1970年代建築のものでしたが、メンテナンスに関する基本的な考え方は共通といえるでしょう。その経験からお話ししてみたいと思います。

まずマンションには表と裏の顔があります。表はいわゆる表通りに面した、まさにマンションの顔です。ここは、景観条例によって守られていますので、いわゆるメンテナンス関連のものを見せることは絶対に許されません。エアコンの室外機も、物干しも、衛星放送のアンテナですらも見せてはいけません。
それでは、それらの設備関係はどこにあるのでしょう。
給水タンクや衛星放送のお皿は屋上に、ただ、決して見えないようにファサードと同じ素材で囲われ、電気の配電設備やボイラー関係は地下に専用空間を設けます。
多くの場合、マンションは空洞構造でコートヤードといわれる中庭のような空間を持ち、そこにはサービス用のエレベーターや階段をめぐらせています。つまり、一戸の住宅が表口と勝手口(裏口)を備えているのです。勝手口からは工事関係の出入りもありますし、ゴミなども裏口のごみ収集ルートから回収されます。そして圧巻なのが、給排水関係や電気のメインケーブルルートなどのパイプやダクトが、縦横無尽にコートヤードの壁を走り回っています。つまり、パイプを交換したり、配線を新しくする場合には、建物の外側で交換作業が行われるのです。
もしこれが壁の中に埋まっていたら、故障や交換のたびに壁を開けなくてはならず、大変なことになっているでしょう。

長寿命住宅メンテナンスの秘訣は、表と裏の顔をもち、それをうまく使い分けることにあるようです。

それでは次回の最終回では、住宅が長寿命になったとき、どんなふうに人々は家と向き合うようになるのかを、英国の事例をもとに、考えていきたいと思っています。