第3回 日本の長期住宅とそのメリット

最終回では、住宅が長寿命になったとき、どんなふうに人々は家と向き合うようになるのかを、英国の事例をもとに、町並み、家、そして住らし、という3つの観点から今まで2回お話も踏まえて、考えてみたいと思います。

 

街並み

まず、町並みについて考えてみましょう。日本では町並みに関する景観条例は、たとえば看板をどこの高さに立ててはいけないとか、建物の高さ制限、などはよく聞きますが、たとえば家の造りや、使っていい色合いをある程度そろえるための規制は、住宅街においてはあまりないように思います。宅地開発したニュータウン以外では、戸建てやマンションのデザインに町並みで統一性を持たせている、ということも少ないようです。
おそらくこの背景には、今まで統一されていなかったので、いまさら縛りを設けても、あまり意味がない、あるいはどうせ50年以内の数十年後には建て替えが行われるのだから、規制してもその時にはまた行政の考え方が変わっているかもしれないから、変な縛りを作ることはやめよう、あるいは家は自己表現だから、自由に行うべきだ、というような考え方があるのでしょう。
長い目で街並みについて考えるとき、まず考えるべきことは、この街並みが100年後にどうあってほしいか、という明確なポリシーだと思います。100、200年後にわたって町の価値をどう維持し、あるいはこれから高めていくか、ということを考えた時には、町づくりのポリシーが大変大きな意味を持ってきます。

ロンドンは、パリのように都市全体の整備は行いませんでしたが、各通りやエリアごとには厳しい基準を設けて町並みを守ってきました。そのように守られてきた町並みの中には、特別な顔を持つ、本当に美しい場所が数多くあり、それらの多くはビレッジと呼ばれています。私の家のすぐ近くにはプリムローズヒルのビレッジがありますが、町の人々は「私のビレッジ」と呼んで、そこに住むことをとても誇りに思っています。
(写真キャプション:プリムローズヒルのビレッジの街並み。パステルカラーがかわいらしい。)

(写真キャプション:チェルシーのタウンハウスの町並み。きちんと手入れされた壁と植木のトピアリーが町の格を表している。)

上記はいずれも築200年以上の建物ですが、景観条例に守られ、メンテナンスがきちんと施され、町並みを保ち続けています。

長期住宅を考えるとき、当然それを含む街並み、そしてその100年後、200年後の姿をも考え、街並みを作り上げていくプランニングが必要になってくるのでしょう。
日本はこれから人口が減少していきます。ニュータウンを拡張していくだけの考え方から、今ある街並みの空洞化を防ぎ、街そのものを熟成させていく発想への転換が求められるように思います。そして街の命をつなぐには、様々な年齢や職業の人々ができるだけバランスよく混在することも必要です。お年寄りも子供も家族も単身者も一緒に住める街が理想といえるでしょう。

 

住宅の寿命が長いということは、その家は、買った人一代限りのものではなくなるということです。住む人は数十年という単位で入れ替わっていきます。
できるだけいい状態で維持し続けることが重要となり、次にこの家がマーケットに出される時には、その維持の状態で価値が決まるようになります。
前回のお話にもあったように、家の作りが強固になり、メンテナンスがしやすい建築が必要となります。さらに、様々なライフスタイルやデザインの嗜好に対応するため、いい空間を持つ建物であることも重要になります。今までのように70㎡だからなんとか変なバランスでも3LDKを作りましょう、などという発想で空間を作っていくことは、このコンセプトの中では許されません。
また、環境に配慮した工法、維持方法、省エネであることも不可欠です。
さらに採光や照明への未来を見据えた十分な対応も必要です。
建築のみならず、インテリアのプロも加わり、一番いい空間を持つ長期住宅のモデルを、おそらく国をあげて考えていく必要があるでしょう。

しかし、それが理想的に実現したとき、家は数十年単の経年では不動産の資産価値を失わないものとなります。まさに本当の意味での不動産となります。

保有形態も、定期借地権が増えてくるでしょう。ただし、現在のように何年後には更地にして戻す、というような契約ではなく、最大200年までの借地権のような形で、人々はそれを売買するようになるでしょう。
建物は街に帰属している感覚となります。当然売買契約書にも、家のメンテナンスの条項が加えられてくるでしょう。家のメンテナンスを行い、いい状態で次の人に引き渡すことが、その家に住む人の義務となるのです。
この結果、人々は建物を大切に扱うようになるでしょう。
さらに、付加価値としてのインテリアが家の売買価値を左右するようになりますから、インテリアへの関心も高まるでしょう。
また、このような住宅を購入したとき、家そのものを建築する為の資金は浮きますから、その分を買った住宅のインテリアを刷新したり、自分のものにするための工事が主流となり、その分野のプロの需要やスキルが飛躍的に向上していくでしょう。
住み手のインテリアへの関心も高まって、インテリアにかける消費指数も上がっていくはずです。つまりインテリア関連のインダストリーそのものが大きくなっていくということです。まさに、今英国で普通に見られていることです。

 

暮らし

第一回でお話ししたように、築年数の古い建物には、住人の年齢がよりミックスしたコミュニティとなります。高齢化が進む今後は、コミュニティのあり方が、安心できる暮らしのためにはより重要になってきます。
英国ではコミュニティワッチという言葉があります。
これは、戸建てでもマンションでも、住人は常に周囲の人々の暮らしに気を配っていますよ、というメッセージです。これらのスキームを近隣の住人単位で実施している場合には、道路やマンションの公共部分に看板が掲げられています。何かあった時にすぐに通報できる仕組みがあり、そのこと自体が犯罪の抑止力になったり、病気やけがの際の素早い対応を可能にしたりしています。
マンション単位のバーベキューパーティーも行われ、そのための施設が設けられていることもあります。実際バーベキューは住人同士を近づけるには、とてもいい手段のようです。バーベキューができない時には、住人集会の最後がワインパーティーとなります。
もちろん日本では違った形でのコミュニティの親睦のあり方になるかとは思いますが、いずれにしても、住人同士がお互いを気遣い、様々な年齢のコミュニケーションが日常的に行われることが重要です。

住む人々ひとりひとりの心がけで、住む人にやさしい街、を作り上げていくのです。

 

長期住宅の意義

さて、ここまで読んでいただいて、何か気付かれることはありませんでしょうか。

今まで書いてきたこと、おそらく江戸時代後期から戦前までは、日本でも同じような考え方で、町やコミュニティは維持されていたことではないでしょうか。
戦後のある意味での日本人としてのアイデンティティの喪失、その後のただ拡大と画一化、そして都市化のみを求めた高度経済成長のなかで、失われてしまってきたもののように思われます。

地球規模の環境問題、そして日本が抱える高齢化と人口減少問題の中で、私たちの暮らしのあり方が大きな転換期を迎えています。

200年住宅への取り組みが、その中で見出せる未来への一筋の光であることを願いたいと思います。