第7回 長期住宅のコンセプトがもたらす本当の価値

こんにちは。お久しぶりです。ブログの続編がスタートします。

流通する住宅の平均寿命が約80年のイギリス(日本は約30年)の暮らしと家のあり方を紹介するブログの連載をさせていただきもう2年以上となりましたが、この間に長期優良住宅ブランシェラ吹田も完成し、新しいコミュニティでの暮らしも始まりました。

そこで今回から3回にわたり、今までのお話を踏まえて、長期住宅のコンセプトがもたらす本当の価値を、そしてそこでの暮らしを、さらに深く掘り下げて考えてみたいと思っています。

 

住宅の寿命と資産価値

まず住宅の寿命と資産価値についてお話しましょう。
英国で流通する住宅の平均寿命は統計上80年ですが、実際に最も多く流通している住宅は、以下の写真のような100年から150年くらいのタウンハウスになると思います。


ロンドンでは基本的に住宅の資産価値は経年によって下がることはありません。特に100年以上の家はピリオッドプロパティ(歴史建築)として絶大な人気を誇り、メンテナンスを加えられ、住み継がれています。
この典型的なタウンハウスのプランはほぼ同じで、以下のような120-150平米程度の3-4LDKです。

間取りとデザインに関する解説は次回で詳しく触れますが、ロンドンで古い住宅が人気の理由は、歴史的スタイルに裏付けされた圧倒的に美しい建築と、どのようなライフスタイルにも対応できる内部空間の正しいプロポーションとフレキシビリティ、そしてメンテナンスが保たれているからです。

ただ、実は建物の寿命が長いというだけで、住宅の価値が下がらないわけではありません。そこには住宅の価値を落とさない2つの大きな“縛り”が存在します。それは1.景観条例、と2.定期借地権売買です。

  1. 景観条例とはあるエリアや道路に使用可能な建築資材や建築デザインを決め、その変更には厳しい審査制を導入し、今まで守り続けてきた美しい景観を守ろうという条例です。たとえばある住宅地では、外壁はパステルカラーで窓とドア枠は白、という規定があります。これで写真のようなきれいな街並みが保たれ、ロンドンでも最も人気の住宅地となっています。景観条例は街並みごとに定められ、この写真の町のように景観保護地区や保護建造物(全国に34万か所)に指定されると、窓の付け替えも、屋根にドーマーをつけることも、自分の庭の木を切ることも公開申請をして厳しい審査を通り許可を得なくてはなりません。これにより100年前も100年後も変わらない価値を持つ美しい街並みが保たれるのです。
  2. もう一つは定期借地権による売買です。マンションはほとんどこれに該当しますが、100年前後のリースが一般的で、地主がそのリース契約の中で、住人や管理組合が守らなければならないメンテナンスや家の状態に関するルールを設け、それを守れない場合には、リースを解除できるようになっています。

この2つの“縛り”によって、自治体も地主も住民も必死で街と住宅の資産価値を保ち、高める努力をしているのです。

また建物の価値が下がらない英国では、購入時の改装やメンテナンスは、資産価値を高めるための投資です。また、その投資を行いやすくする金融商品(モーゲージ)も充実しています。たとえばその返済期間、返済プランの多様性(高齢者でも借りられるリバースモーゲージや、月々の支払い金額を圧縮できる利子オンリーモーゲージ、改装を支援するリフォームモーゲージなど)が、資産を維持するために整備され借りやすくなっています。

さてここで、英国で見られる住宅の資産価値が下がらない条件、まとめてみましょう。

  • 住宅の寿命が長いこと、そのための性能とメンテナンス、リフォーム環境を備えていること
  • 空間としてのプロポーションに優れ、キャパシティが高く、世代を超えた居住に耐えること
  • 住居内部のみならず、建築デザインに優れ、それを含む街並みが未来永劫美しいこと
  • 住宅への投資を行いやすくする金融商品が充実していること

日本でも始まった、免震構造、断熱性能、エネルギー効率などの性能を飛躍的に向上させた長期優良住宅の普及は、家を本当の意味で資産化する第一歩となるでしょう。

 

長期住宅のもとでのライフサイクル

次に「価値が経年で変わらない家に住む」という基本条件のもとで、家を取り巻く流通経済はどのような形を取るのか見てみたいと思います。

ロンドンに住むある人の家の購入サイクルを見てみます。
英国では一つの家に一生住むという発想はなく、人生のステージによりヤドカリのように住まいを買いかえるのが一般的です。これをプロパティラダー(家の梯子を登る)と言います。(以下は不動産業者とそのパンフレット)

親から独り立ちすると、多くはハウスシェア(一軒の家やマンションを何人かで共同で借りる賃借形態)し、住居費を抑えながら家を買う頭金のための貯金を始めます。
結婚すると小さなマンションを借り、まず共働きで頭金を増やします。
頭金がたまり、モーゲージ(住宅ローン)を組める年収に達したら、最初の小さな家を比較的通勤便利なエリアに買います。このプロパティーラダーに第一歩をかけることが重要なのです。
この家に手を加えて、買った時よりも高く売り、それを頭金にさらに大きな庭付きの家を郊外に求めます。子供が大きくなるまでは、ここで一生懸命モーゲージを返済します。(共働きも一般的)
子供が独立し家族が減ると、都心に戻り小さなマンションに買い替えます。この時にはモーゲージの返済も終わり、小さな家にすることで、老後の蓄えも増やします。ここでできるだけ長く、仮に一人になっても独立した生活を営みます。都心であれば、一つ空いた部屋があれば、買い物や日々の助けをしてくれる学生を住まわせることもできます。(若いころから他人と住むことに慣れていることも重要、またマンションでは玄関による段差がないのでもともとバリアフリー。)
そしていよいよ自立した生活が年齢的に難しくなると、その家を売って、ケアハウスなどに入るのです。
つまり家を上手に買いかえながら、人生の節目でお金を生み出していきます。
英国人は日本人と比較し銀行預金が少ないといわれますが、英国では家が貯蓄の代わりです。お金は家で回しながら大きくしたり、人生の節目に備えます。そのバックボーンにあるのが、「家が経年で価値を下げない」という大前提なのです。

そして上記の買い替えの際には、必ずと言っていいほど改装が発生します。改装し家の状態が良くなれば、さらに高く売れるようになるからです。
私たちインテリアデザイナーの仕事も、インテリアのマーケットも、このサイクルを背景に、日本よりもはるかに活況です。

 

長期優良住宅でのコミュニティ

最後に、ブランシェラ吹田のような長期優良住宅で必要とされるコミュニティについて、英国の例もふまえて考えてみたいと思います。

私はロンドンで4件の家に住みましたが、いずれも築90年以上の集合住宅でした。そこでの経験からも、寿命が長い集合住宅にはさまざまな人生のステージの人々がミックスすることとなるといえます。特にロンドンでは人種も様々です。
以前10年間住んだマンションの隣人は、最終的に自立が難しくなりケアハウスに入る直前まで一人暮らしを続けました。その間、常にマンションの隣人たちや管理人さんが彼女に声をかけ、何かとお世話をしました。長いコミュニティですから、自然とそうなります。常に隣人たちと顔を合わせ、普通の暮らしができることが、彼女にとって大切だったのだと思います。歳は取っていてもおしゃれを欠かさず、お話もとても面白い、素晴らしい隣人でした。本人が長年コミュニティで人間関係を作ってきたこと、千差万別の住民がいてもコミュニティでつながることが重要だとマンションの自治会活動が啓蒙してきたことがそんな交流を可能にしたといえるでしょう。

現在のマンションでも、住民のコミュニティは濃いです。一緒に出かけることもお茶し合うこともありますし、会合ごとのパーティー、インターネットGoogleグループでの情報交換も盛んです。若い住人は時としてマナーに疎いこともありますが、ちゃんと文句も言います。うるさいおじさんおばさんは何人もいますが、それも大切なことでしょう。管理会社の担当者も熱心です。英国に家族親戚のない日本人には、そんなコミュニティは本当に心強く感じます。
昨年歴史的ゲリラ豪雨でエントランスが冠水しかけた時には、夜中の1時にもかかわらず、あっという間に住民が集まり、水かきで事なきを得ました。普段からのコミュニケーションがこんなときにも活きます。
私にとっては、まさに遠くの親戚より近くの隣人、といえるコミュニティです。

しかし実は情緒的な視点のみならず、マンションだからこそコミュニティが重要になる実質的な理由があるのです。

たとえば私が住む、以下の築140年の廃校を住宅にコンバージョン(使用目的を転換)したマンションを例に見てみましょう。敷地内に建物が4棟、60戸のゲートコミュニティ(敷地に入るのにゲートがある)、所有形態は999年リースです。

まず住民は自治会組織を作ります。この自治会は会社組織を取る場合もあります。住民の中から代表あるいは取締役を選び、弁護士や会計士、さらにマンションの管理会社を雇います。弁護士は自治会運営に関連して起こりうるさまざまな法的案件を取り扱い、会計士は管理費や修繕積立金などの収支管理を行います。管理会社は住民への連絡事項の衆知徹底(ウェブのソーシャルネットワークやメイルシステムも使います)、庭木の手入れ、電球の交換やクリーニングも含む日常のメンテナンスや、エレベーターやゲートの定期点検、日勤管理人とガードマンへの指導、そして業者のアレンジや支払い、さらに自治会と協力しての住民総会のアレンジや書類の作成なども行います。
また、古い建築なので数年に一度は大きな補修も必要となります。適正な補修が適正な金額で行われるよう、管理会社を指導し工事のアレンジ、住民間の合意形成、監督することも大切です。
新しい住民が入るとほとんど改装からスタートしますが、この際適正な工事が行われているかどうか、住民からの工事申請を審査し、工事業者の養生方法やマナーに至るまで、きちんと監督します。
マンションの管理は実は大変なことなのです。
しかし、どんなに大変でも住民は頑張ります。おそらく日本よりもこのあたりはシリアスだと思います。
それがマンションの価値を保つ基本でもあるからです。
住民のコミュニティがきちんとしていないところで、どうやってきちんとした管理ができるでしょう。
私のマンションではこういった背景もあり、住民たちは意識して緊密に関わり合っているようです。献身的な自治会長さんには皆大感謝です。住民同士は常に挨拶し合いますが、外部から入ってくる業者や住民のゲストたちにも良く声をかけています。この積み重ねが災害時やセキュリティの対応でも驚くほど活きてくるのだということを実感しています。

さらに、綿密なコミュニティはいい人間関係も作り出します。
子供に声をかけてくれる大人たちがたくさんいること、世代を超えて大人同士が挨拶を交し話をする機会が多いこと、一人暮らしのお年寄りのことを気にかける隣人たちが多いこと、住民総会が毎回楽しみなパーティーになること、共有庭で住民たちがガーデニングを楽しむこと、すべてある意味、多種多様な人々が一つの敷地にコミュニティとして暮らすマンションだからこそ、より密にできうるプラスの人間関係です。同じマンションに住むということは、ある意味基本的価値観を共有しているといえます。趣味を共有できたり、仕事上のつながりができたりすることも多いのです。それぞれの専門性をコミュニティ運営に活かせている事例もいくつもあります。私もインテリアデザイナーとして時々アドバイスを求められます。貢献することから学び得ることも多いです。

日本では集会室があるマンションもあります。ここで開催される趣味の会などもコミュニティづくりには大きな役割を果たすでしょう。
日本でも東日本大震災を契機に、地域やコミュニティのつながりを見直す動きが広がっているようです。

マンションはとかく人間関係が希薄になりがちだと言われますが、もったいないことです。声をかける少しの勇気と手間暇が必要ですが、環境のいい長期住宅で、信頼できる人々に囲まれて歳を重ねていけることは、とても幸せなことなのだと思います。

さて、次回は長期優良住宅だからこそ特に大切にしてほしい、資産を高めるインテリアのあり方について、考えてみたいと思います。