第8回 長期住宅とインテリアデザイン

前回のコラムでは住宅の寿命と資産価値、そして長期寿命住宅でのコミュニティについてお話いたしました。
今回は、長期寿命住宅を支える建築とインテリアについて、英国のマーケットの例をご紹介しながら考えていきたいと思います。

優れた長期住宅のための絶対条件のひとつはいいインテリアができる空間があることです。
これについては、2年前のコラムの第2回でもお話しています。

ここではいい空間のための4つの条件を挙げています。

  1. いい壁があること
  2. いい窓があること
  3. フォーカルポイントがあること
  4. シンプルでバランスがいい四角い箱であること

シンプルな4つの条件ですが、とても重要で今回のお話にもしっかり当てはまります。

日本は住宅の建物の形状は自由でまちまちです。これに対し、英国の住宅は前回ご紹介したような築100年以上のタウンハウスが主流で、建築条例の縛りがきついため建物は非常に似通っています。ドアの位置、窓の位置、形状、建物内での空間の割り振りもそうです。マンションタイプの住居でも(ほとんどが1930年代以前の建築)これに近い間取りが一般的です。一見建築空間の制約が大きいように思われます。
さてこれが本当に制約となっているのでしょうか。そのことをタウンハウスのインテリアをもとに検証してみましょう。

 

タウンハウスの建築がなぜ同じなのか

タウンハウスは市内や郊外において、もっとも流通量が多いタイプの不動産です。前回も写真でご紹介しましたが、いわゆる長屋タイプの、壁を隣家と接する住宅です。境界壁はレンガ造りで厚みが30センチ以上ある非常にしっかりしたものです。この境界壁は基本的に変更を加えることができません。

前回もご紹介しましたが、この典型的なタウンハウスのプランはほぼ同じで、以下のような120-150平米程度の3-4LDKです。

ほぼ同じというのが面白いですが、実際間取りは驚くほど似通っています。もちろん家のサイズそのものは大小ありますが、大きいものはこれがそのまま平面的に引き延ばされて大きくなり、さらに上に階層が足されていくことになります。
一般的に道路側になる家のファサードの変更は許されませんが、道路の反対側、つまり庭側には増築することが許されています。この増築部分に家族のためのLDK、ファミリールームを作るのが、英国では大人気です。

さて、インテリア空間を見るために、このタウンハウスの図面に家具を加えてみましょう。さらに赤でデザイン上のポイントも示してあります。

このうちリビングとダイニングについて、赤で示したデザイン上のポイントを簡単に解説します。

A. エントランスのしつらえとは、まず家の顔である玄関ホールに印象的な家具を置くということです。アンティークのコンソールテーブルやチェスト+ミラーや照明が一般的なアレンジです。

B. リビングでは、ソファの背景に良い壁があることが基本です。大きなアートも飾ることができるこの壁を背景に、ソファ周りで一つの景色を創ります。

C. リビングでフォーカルポイントの中心は暖炉と左右の壁です。リビングの表情を決める重要なしつらえとなります。以下のようにモダンなもの(上)、暖炉の左右を造作で創り込む(左下)、あるいは家具で見せる(右下)などのアレンジをします。

D. ダイニングの背景の壁も重要です。コレクションしてきた食器などをディスプレイします。

E.ダイニングの家具用の壁にはキャビネット+ミラー+照明+花が一般的なしつらえ。ダイニングにふさわしい華やかさを演出します。

上記の基本セオリーを踏まえて、各家庭では実にバラエティ豊かなインテリアを創りだしています。

それでは実際に同じ条件を持つリビングルームのインテリア例で見ていただきましょう。(以下の写真は、私が手掛けたものや、家を探すためにリサーチした際に撮ったもの、さらに当時の住宅販売広告から許可済みで使用する映像です。なお下記住宅はすでに次のオーナーの手に渡っているため、この写真の状態では存在しません)。
デザインのスタイルを分かりやすくするためのネーミングも参考にしてみてください。

フェミニン+キッチュ

デコラティブ禅

シンプルモダン

シティマスキュリン

ミニマル禅

シティカントリー

アーティーエクレクティック

シティスリーク

ゴージャスエクストリーム

いかがですか。間取りは同じなのにインテリアは本当に千差万別です。間取りによってインテリアに制約があるとは見えません。むしろ自由です。実際には住む人の数だけデザインがある、といってもいいのでしょう。
制約があると思えた空間が、実はインテリアの自由を追求するためには非常に優れた間取りであるということがお分かりいただけるのではないでしょうか。この理にかなった包容力ある空間、つまり「良い箱」は、いわば絵画のキャンバスです。どのようなデザインを表現することもできるのです。
住宅を購入する側からいえば、この空間があることさえ分かれば、自らの想像力でどのような絵でも描くことができるというお墨付きになるのです。
さらに、この間取りであれば、ヤドカリのように家を買い替えても、インテリアアイテムを買い替える必要がないという利便性もあるのです。

日本では、こういったスタンダードな空間が確立されているとは言い難いようです。
中古住宅を流通させる環境を整える意味でも、このような優れた空間要件を持つ間取りのスタンダードを作り上げていくための検討が、今後必要になってくるのではないでしょうか。

ここでぜひもう一度スクロールアップして観てみてください。コーニス(天井と壁の間の装飾)、家具、窓周り、アート含め、ディテイルにまで徹底的にこだわりながら、自分なりの自由なデザインを実現しようとする、オーナーのインテリアへの情熱を垣間見ることができますね。
そして自由にさまざまなエレメントを併せてスタイルを創りだす考え方、これをエクレクティックとも呼びますが、実はそれ自体が今イギリスのインテリアスタイルの大きなトレンドでもあります。
英国で大ブームのエクレクティックスタイルについては、以下のブログで長期にわたるコラムで詳しく解説しています。ご興味があれば、そちらもどうぞご覧ください。
http://www.karimoku.co.jp/blog/sawayama/2011/04/

 

ファミリールームの考え方

イギリスの食事はまずいとよく言われます。正直私が来た1995年当時のイギリスではその言葉通りでした。しかし近年の食事情の改善は、レストランにおいても自宅においても目覚ましいものがあります。今やイギリスはまずいという人は、英国に住む日本人でもほとんどいないのではないでしょうか。

家族で過ごすことの重要性、その中でも食事を一緒に作り食べる、という行為がますます見直され、空間づくりに大きく寄与しています。良い食事=健康につながりますから、医療費を削減したい政府のもくろみとも合致し、さまざまな角度から推奨されているのです。さらに規則正しい食生活や食の質の向上は子どもたちの学力向上につながり、食によって育まれる家族愛は犯罪の減少にも寄与するなど、食育は社会資本に大きく貢献すると考えられるようになっています。
先ほど見ていただいた間取り図にもファミリールームがありますが、増築でファミリールームあるいはファミリーキッチンを創ることが、今まさに大ブームです。
実際、庭に面したファミリールームやファミリーキッチンがあるかないかで、住宅価格にも大きく影響します。

ファミリールーム、ファミリーキッチンとは具体的にどのような機能を備えているのが望ましいのでしょうか。

  • 家族が一緒に作業できる、適当なサイズと動線のキッチンユニットがある
  • パントリーなど、効果的な収納がある(この収納により散らかることを防げる)
  • 対面式のカウンターやアイランドユニットがあり、朝食カウンターとして座ることもできる
  • 天窓があって明るい
  • テレビやラジオの視聴ができる
  • カジュアルなダイニングテーブルがある
  • 小さなソファがある
  • 庭やデッキにつながっている
  • 庭やデッキで食事ができるデッキテーブルがあり、バーベキューの設備もある

以下は私が実際にロンドンの改装プロジェクトで増築したファミリールームです。上記のほぼすべての要件を備えています。

このご家庭では、それまでの独立型のキッチンからファミリールームにしたことで、家族が常にキッチンに集まり、ご主人も子どもたちも料理を一緒に行うようになり、一緒に過ごす時間が圧倒的に増えたそうです。また、頻繁にパーティーを行うこのお宅では、外のデッキ空間も含めたこのファミリールームがパーティースペースとしても大活躍しています。

上記は大きなお宅の例ですが、たとえ普通のキッチンでも、以下のように、カウンターを延長した座れる朝食カウンターはお勧めしています。これだけでも、キッチンが家族が集まる生活の中心になるのです。

以下の私のロンドンの自宅も、LDKがオープンにつながったファミリーキッチンです。

ファミリーキッチンの効果はなかなかのものです。カウンターには人が集まり、キッチンはにぎやかです。また、右の写真の奥に見えるリビング空間では、大きな座卓に日本式に床に座って食事ができるようにしてあり、友人たちからは「まるで日本の親戚の家でくつろいでいる感じ」と大好評です。

ブランシェラ吹田マンションのLDKでもすでに対面式キッチンが採用されていますが、さらに一歩進めて、キッチンを生活の中心に据えたファミリーキッチンを実現することも可能です。

上:通常の対面式キッチンを持つLDK (モデルルームタイプ)

下:プランニングイメージ図。同じスペースのキッチンダイニング部分を、大きなファミリーキッチンとしたプラン。リビング茶の間には120センチ角の、食卓も兼ねる大きなテーブルを置き、ダイニングの機能も兼ねる。(赤い線で示したものは造作での変更箇所)


右側は大きなカウンターが中心のファミリーキッチンです。リビング側から見るとキッチンユニットがカウンターの背景として、シアターキッチンのようなドラマティックなビューを演出します。収納力も抜群です。誰かがキッチンに立ち始めると、自然に人が集まってくるでしょう。料理が好きな人は一日中ここにいるかもしれません。お料理教室もできそうです。長いキッチンユニットの端には椅子が置けるミニ書斎も設けて情報ステーションにしました。女子会やパーティーの回数も増えるでしょう。そんな時はキッチン側もリビング側もすべてが使える空間になります。入りやすいキッチンでは、片付けも手伝ってもらえます。ここでは大きなベランダもリビングスペースの一つです。デッキチェアを出せば温かい日はここでダイニング。ハーブも育てられますね。
簡易の3Dで見ると下のような雰囲気になります。(左:ファミリーキッチン、右:リビング茶の間)

 

ファミリールーム(キッチン)の効果

イギリスでは食の向上と家族の絆のために、食を生活の中心に据えるインテリアが重要な役割を果たしてきました。

少子高齢化の進む日本でも、「食は家族の絆」として、家庭のありかたに果たす役割がますます重要になってくるように思います。私自身の経験からも、年齢とともにおろそかになりがちな毎日の食に、ハリを与えてくれるきっかけにインテリアがなれると思います。さらに人を招きたくなるファミリーキッチンであれば、様々な直接的間接的効果を生んでくれるのではないでしょうか。

そしておそらくファミリーキッチンのもっとも大きな利点とは、子供の情操教育の場となることです。
親と子供たちはここで長い時間を過ごし、人生の大切なものを学びます。
子どもが小さい時期、母親は子供たちが遊ぶ姿をいつも見ていることができます。
学童時期はキッチンカウンターが子どもたちの勉強部屋になるでしょう。この時期にキッチンに自然と触れることで、料理への興味やお手伝いの習慣が生まれるでしょう。
思春期は親子関係が難しい時期ですが、おいしい食べ物だけはいつも親子を近づけてくれます。
食事のマナー、人を招くマナーを教えることは、大人になるための大切な教育です。親が動くさまを間近で見ることこそが、もっとも効果的な教育方法だと思います。家族が集まり、人が集まる家庭が素晴らしいものであることを、子どもたちはしっかりと理解するでしょう。
大人になった子どもたちは、ここで料理もきちんと勉強します。
巣立った子どもたちが戻ってくるのはこの家とこのキッチン。大人同士となった親子のたくさんの会話が生まれるでしょう。
そしていつか三世代、四世代になった家族は、またこのキッチンでにぎやかに集うでしょう。

いかがでしょう。どーんと生活の中心にキッチンを据える、ファミリーキッチンの考え方。
素敵だと思いませんか。

今回は長寿命住宅に必要なインテリア空間のお話と、食を中心としたインテリアについてのお話をいたしました。

次回は、「積み重ねた人生を映すインテリアのテクニック、さらに日本の伝統工芸品をインテリアに採り入れる楽しみ」をテーマに、日英での事例をご紹介したいと思っています。
また、2月には上記をテーマとした新しいモデルルームがオープンします。その解説も併せて行う予定です。