第9回 積み重ねた人生を映すインテリアのテクニック

前回のコラムで長期寿命住宅を支えるロンドンの建築とインテリアについてのお話をさせていただきましたが、今回は「積み重ねた人生を映すインテリア」と題して、人生とともに成長させるインテリアとその手法について、伝統工芸品のご紹介も含めてお話してみたいと思います。

 

家族の成長とインテリアの成長

昨年末より、ブランシェラ吹田片山公園の新たなモデルルームのデザインを担当させていただき、3月4日に完成とお披露目のセミナーが行われました。

「住み続けて成長した25年後の家」をテーマに、「発売当時のモデルルームが家族の成長と家族構成の変化とともに成長した」というストーリーをデザインの背景に据えたのです。家族構成は、子供が独立した夫婦2人と、高齢で車いすを使う祖母の3人暮らし、つまり今マンションを購入された若い子育て世代の25年後という想定です。改装に関しては、ユニバーサルデザイン推進協会代表理事の芳村幸司先生の監修のもと、もともとのバリアフリーに加え、手すりや大開口引き戸を導入しました。インテリアに関しては、当初からある基本の家具はそのままに、年月の中でコレクションしたもの、新たな嗜好、同居するようになった祖母が伝える家具などを、エクレクティック(折衷様式)の手法で加えました。
それでは実際に完成したモデルルームをご覧いただきましょう。

 

エントランス、廊下

まずはエントランスをご覧いただきましょう。

玄関周りは、ウォルナットカラーと白い壁が印象的なコントラストを生み出す空間です。帯をフレームに入れたアレンジが印象的です。100平米強のマンションですが、廊下が広いとゆとり感がありますね。高齢者対応の手すりや引き戸ABCでさえ、空間のアクセントになっています。
以下は廊下の一角に置かれたアンティークの薬箪笥を中心としたセッティング。古いもの、工芸品、そして写真アートやとんがった照明などが面白く混じり合う風景。

廊下から祖母の部屋を見ています。車椅子での移動も楽々です。

 

祖母の寝室

ここではコテージスタイル(英国のカントリースタイル)をテーマとしました。かわいらしいコテージスタイルは永遠の人気。さまざまなパターンや色を重ねて造ります。
部屋の左側が大きく開いているように見えますが、ここは車いすが入る場所です。「車いすを入れても絵になる部屋のインテリアを初めて目にしました」と、監修いただいたユニバーサルデザイン推進協会代表理事の芳村幸司先生にもお褒めの言葉をいただきました。かわいらしい壁紙や照明、手触りがよさそうな布の重なり、ちょっと変わった照明などが居心地のよさそうな個室を作っています。

 

LDK

LDKのデザインコンセプトは、「伝統工芸品とモダン家具を混ぜ合わせたエクレクティックスタイル」としました。結婚当初に買ったダイニングセットやソファ、椅子などを大切に使いつつも、代々引き継ぐアンティーク家具や、伝統工芸品を買い足しながら作り上げた空間、という設定です。それだけではなく、モダンな要素も忘れてはいません。歳を取っても、いつまでもわくわくする空間にいることは、とても大切だと思います。逆に年齢を重ねたからこそ、冒険を恐れずに色々試してみたいもの。インテリアでもそんな冒険心を忘れないことが、暮らしの場を枯れさせない秘訣だと思うのです。
全体を見渡すと、和洋新旧が混じる、ユニークな雰囲気を醸し出す空間です。

 

ダイニングエリア

ダイニングで目を引くのは、何といっても近江水屋箪笥です。ダイニングテーブルの背景としてもいい味を出しています。ただ民芸調の重さだけが強調されないように、あえてペンダントライトはコンテンポラリーで軽いもの、でも華やか感が出せるものを選んで。

今回テーブルセッティングに使ったのは、九谷のワイングラス、江戸切子の冷酒用グラス、高岡銅器の塩入れとキャンドルスタンド、津軽のモダン塗の椀と皿、輪島塗の箸、金沢金箔の箸置き、山中塗りのテーブルマット、燕洋食器のプレースマットとカトラリーセット、山形の鉄器などです。皆それぞれに伝統的工芸品としてその精神と製造法を守りながらも、コンテンポラリーなアレンジメントを追求したデザインで、和洋いずれにも合う華やかさを備えています。

 

リビングエリア

リビングに目を移すと、和の空気感とエクレクティックなアレンジをより強く感じることができます。

時代箪笥と書アート、友禅柄のファブリックを使った華やかなカーテン、西陣織上げた華やかな菊文様のファブリック(斉藤上太郎デザイン)を張ったサロンチェア、老舗の山形段通がポルシェのデザインも行う奥山清行氏のデザインを織上げたシャギーラグ、アンティークの仏像台をコーヒーテーブルにしたもの、これにオランダからのアートシャンデリア、サーチライトタイプのスタンド照明、高岡能作によるすず100%で自在に変形するかごなどでモダンな要素も加えました。赤の色は、帯を仕立てなおしたクッションやエルメススカーフのフレームなどでちりばめました。
このマンションはベランダが大きいため、ガーデンデザインで一戸建てのようなゆとりのアウトドアスペースを作ることができます。モデルルームの完成に合わせて仕上げられたミニガーデンは圧倒的なゆとり感を演出します。

 

趣味、書斎

今年2012年オリンピックを迎え、そのカッティングエッジな町やショップに注目が集まるイーストロンドンスタイルをテーマにした趣味書斎。ロンドンの風景を写した壁紙や、こじゃれたアクセサリーがクールな書斎を演出します。

 

主寝室

主寝室のテーマは華やかな伝統工芸品のコラボレーション。伝統工芸品を中心に、モダンに美しく仕上げました。ここで過ごす時間が豊かで大切な時間となる、また昼間も美しくあるようデザインしました。世界的にも評価の高いトミタの手描きの壁紙を背景に、男女フィギュアの照明や、大人の華やぎを表す伝統工芸アイテムが並びます。

ここで昼間の色調も見ていただきましょう。夜の表情が妖艶なのに対し、昼は落ち着いて見えます。夜の空間の方が艶っぽく見えるのは、照明による効果です。


この部屋でもう一つ訪問者の目を引くのが、帯を使ったカーテンタッセルのアレンジです。ロンドンでも大好評の帯カーテンタッセル。帯は世界最高の織物工芸素材。使い方の工夫をするのも楽しいですね。(右は漆と房によるタッセル:参考商品 いずれも澤山乃莉子デザイン)

 

育てるインテリアの可能性

いかがだったでしょうか。ブランシェラ吹田片山公園の新しいモデルルーム、「積み重ねた人生を映すインテリア」をご覧いただきました。
一つのマンションでも、デザイン次第でさまざまなインテリアを表現することが可能です。
これを実現するために使ったテクニックが「エクレクティック(折衷主義)インテリアデザイン」です。
エクレクティックという手法を得て、インテリアは育ち、またその可能性を無限に広げることができるようになるのです。使いこなせば、年月を重ねるごとにインテリアはどんどん面白くなっていくのです。
そこにはぜひ日本人の誇りである、伝統工芸品を置きたいと思います。日本の素晴らしい伝統工芸品は、空間にクオリティ、深み、面白さ、リズム感、そしてそれを持つ誇りと満足感を与えてくれます。
良い箱の中で、ゆっくりと時間をかけて家族と家を育てていく。長期優良住宅は、長いスパンで家とインテリアについて考えることを可能にしてくれる、素晴らしいコンセプトであると確信します。